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4. エンジンの実験モード解析実例
     実験モード解析が高速エンジンの開発に役立った実例を以下に紹介する。

<まえがき>
  旧来の直列6シリンダのエンジンAに代わって、高性能・軽量化を目指した同系列のエンジンBが開発された。
試作の段階で新エンジンBのシリンダブロックをエンジンAの場合よりも、約2%軽量化したところ、エンジンBのシリンダブロックの固有振動数はエンジンAの場合に比べて全般的に低く、構造減衰も低い(共振ピークが鋭い)ことがFig.4-1からわかった。


 
 

<シリンダブロックの実験>
  両シリンダブロックの概略寸法をFig.4-2に、エンジン諸元と主要部品の重量等をTable.4-1、Table.4-2に示す。
Table.4-3にクランク軸主軸受(7個)の寸法を示す。


 
 
 


 
 


 
 


 
 
 

 両シリンダの振動挙動の詳細を見るために実験モード解析を行った。Fig.4-3にシリンダブロックについての座標系と振動の計側点の位置を示す。計測点は、シリンダブロック両面に各35点、クランク軸主軸受上に7点、計77点とした。
 


 
 

 加振実験では、No.39点をY方向に加振しながら、77点におけるX、Y、Z、3方向の加速度応答を計測した。
加振実験のセットアップをFig.4-4に示した。実験ではFig.4-4からわかるように、インパルスハンマからの加振力信号と、加速度ピックアップの加速度信号をFFTアナライザに取り込んで、加振点と応答点の伝達関数であるアクセレランス( )を計算してフロッピーディスクに取り込む。これらのFFTアナライザの信号を用いて、モード解析計算ソフト:Vibrant PCからモーダルパラメータ(固有振動数、モード形状、減衰係数)を計算した。
 


 

 Fig.4-1にシリンダブロックA、Bのfree-free時の伝達関数を、Table 4-4およびTable 4-5にシリンダブロックA、Bの固有振動数とモード形状の分類を示した。また、Fig.4-5にモード形状をアニメーションで示した。
 


 

<クランク軸系の実験>
 Fig.4-6にクランク軸系の概略図を示す。クランク軸系についてはFig.4-7に示すように全部で42点の計測点をとり、条件に応じて加振点と応答点を決定した。Fig.4-8にfree-free状態のクランク軸系のX、Y、Z方向の伝達関数を示す。また、Fig.4-9は、シリンダブロックに組み込まれたクランク軸系の伝達関数である。
 


 
 


 
 

 Fig.4-10とFig.4-11には、シリンダブロックに組み込まれたクランク軸系について、スラストベアリングを取り付けた場合とはずした場合の縦振動の挙動を示した。Fig.4-12には、クランク軸系を組み込む前と後のシリンダブロックBの伝達関数の比較を示した。


 
 

<まとめ>
 シリンダブロックもクランク軸系もきわめて複雑な構造系で両者の組み合わせた系についての動的挙動は、有限要素法ではほとんど計算が不可能とされている。

 筆者たちは、一連の実験モード解析から、シリンダブロックA、Bについての振動挙動の詳細をかなり知ることができた。

 詳細は省くが、シリンダブロックBの低い固有振動数と低い減衰係数についての原因は、ブロック横幅の寸法、ウォータジャケット部の空間の大きさ、7個あるクランク主軸受け部寸法の相違、簡素すぎる形状等によることであることなどを知ることができた。
 実物についての実験モード解析は学ぶところの多い体験になったと思っている。

参考文献
H.Okamura , S.Arai  Experimental Modal Analysis for Cylinder-Block Substructure system of Six-cylinder-In-line Diesel Engines  SAE Paper , 2001- 01- 1421
 
 
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