高出力型空気圧人工筋肉の開発


1. はじめに
2. 空気圧人工筋肉とは?
3. 空気圧ゴム人工筋肉の特徴と種類とは?
4. 軸方法繊維強化型人工筋肉の長寿命化について

1.はじめに 〜柔よく剛を制す〜

現在,パワーアシストや医療・リハビリテーションシステムなど人とロボットが協調活動するようなシステムが広く求められています.このようなシステムに用いられるアクチュエータには,軽量・高出力で柔軟性が高いといった特徴が求められています.  本研究室では,天然ゴムと炭素繊維やアラミド繊維のような補強繊維を用いることで世界最高レベルの出力を持つ空気圧ゴム人工筋肉である軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉を開発しました.

  
 軸方向繊維強化型人工筋肉駆動動画

2.空気圧ゴム人工筋肉とは?

空気圧ゴム人工筋肉(以下:人工筋肉)とは,ゴムのような弾性媒体材に空気等の流体を注入して動力を得るアクチュエータのひとつです.通常,風船のような膨張体は内部に空気圧を印加すると,パスカルの原理より四方八方に膨張します(図1).しかし,この膨張体に繊維を複合させることで,ある特定の方向に膨張が偏り,その繊維の形状変化に伴う伸長及び収縮力が発生します.とりわけ,空気の印加によって「収縮力」が得られるアクチュエータを空気圧ゴム人工筋肉と呼んでいます.
 
 図1 普通の風船の膨らみ方

3. 空気圧ゴム人工筋肉の特徴と種類

1) 空気圧人工筋肉の特徴

@空気圧ゴム人工筋肉の特徴  空気圧ゴム人工筋肉は,一般のモータや油空圧アクチュエータに比べて以下の特徴を持ちます. ・軽量で出力密度が高い(重量に対して発生力が大きい) ・生体筋と同様に可変剛性特性を持つ(かたさを変化できる) ・水中や粉中で使用可能であるなど,耐環境性に優れている ・摺動部がなくスティックスリップが生じない ・材料費が安価である(消耗品として使用可能) 以上から,人工筋肉は工場内での直動アクチュエータとしての利用だけでなく,リハビリテーション機器やウェアラブルパワーアシスト機器等,人間に直接接触する機会の多い機械システムに適したアクチュエータとして注目されています.
A空気圧ゴム人工筋肉の種類と特徴 ・McKibben型人工筋肉 現在,学術界で広く利用されている人工筋肉として,McKibben型人工筋肉が挙げられます.本人工筋肉は,Joseph McKibbenによって開発され、当初リハビリテーション用アクチュエータとして利用されました。その後,ブリヂストン社によって「ラバチュエータ」として商品化され,日本中に広く知られることとなりました.人工筋肉といえば,McKibben型を思い起こさせるほど一般的になっています.この人工筋肉は,ゴムチューブに網目状のスリーブを覆った構造(図2)となっており,チューブが膨張したときにスリーブの網目の角度がアコーディオンのように変化することによって,軸(長手)方向に収縮する力が得られます.

 
 図2 McKibben型人工筋肉の構造

・ 軸方向繊維強化型(高出力型人工筋肉)

 本研究室では高出力で高寿命な人工筋肉の開発を目指し,軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉を開発しています(図3).本人工筋肉はゴムチューブに軸方向にひきそろえた補強繊維を内包させた構造になっています.このゴムチューブに空気圧を印加すると,半径方向には膨張しますが,軸方向には補強繊維の拘束により膨張することができません.その結果半径方向に膨張した分だけ,軸方向には収縮します.その際の収縮力をアクチュエータの出力として利用することができます.従来も同様に軸方向に繊維を挿入したアクチュエータは存在しましたが(ワルシャワ型等),撚り繊維を分散的に挿入したに過ぎませんでした.この方法では,高圧印加時などに応力集中が起き破壊しやすくなるとともに大きな収縮力を得ることが難しくなります.本研究室では,「マイクロ繊維」を「層状」に配置することでワルシャワ型の応力集中の問題を解決した軸方向繊維強化型人工筋肉を開発しています.図4に従来型と提案型の人工筋肉の断面図を示します.マイクロ繊維を層状に配置することで,応力集中が発生せずチューブ全面にわたって均等に圧力が分散されます.それにより人工筋肉は美しい 円形形状を取りながら半径方向に均等に膨張します.これまでワルシャワ型人工筋肉のボトルネックとなっていた半径方向の大きな膨張や軸方向からの外力に対してゴムや繊維の負担が著しく軽減されました.この効果は,アクチュエータとしての安定した動作や高出力化,長寿命化に寄与するのみでなく,後述の膨張変形機能を積極的に利用した蠕動運動機構への応用の可能性を広げました.

 
 図3 軸方向繊維強化型人工筋肉の構造

 
 図4 ワルシャワ型と提案型の人工筋肉の断面図

この人工筋肉は,自然長における形状(長さと直径の比)が同じ場合,大半の形状において同圧印加時のMcKibben型人工筋肉よりも高い収縮力および収縮量が得られることが,理論,実験の双方の観点から検証されています.一例として,図5にそれぞれのゴム人工筋肉の形状(太さ:10mm,厚さ2mm,長さ180mm)を一致させた場合の圧力−収縮率特性および自然長時の圧力−収縮力特性ついての実験的な比較を示します.なお,膨張時は膨張径がおおよそ同等となるよう軸方向繊維強化型人工筋にはリングが挿入されています.この図より軸方向繊維強化型人工筋肉が収縮率および収縮力において優れていることが示されています. 

 
 図5 McKibben型と軸方向繊維強化型人工筋肉の収縮特性比較

また,本人工筋肉は目標の仕様(収縮力・収縮量等)に基づき形状や材質(太さ,長さ,厚さ,ゴム材料)を自由に設計することができるとともに、その正確な位置や力・剛性も容易に制御することが可能です。さらに、本人工筋肉の「半径方向への膨張及び軸方向への収縮」を生かすことにより従来のアクチュエータでは実現困難であった運動を引き出すことが可能となり,ソフトロボティクスの可能性を広げることができます.具体的には,ミミズや大腸の蠕動運動を模倣したロボットの研究開発などを行っています.

 ミミズロボット→詳しくはこちら
 蠕動運動ポンプ→詳しくはこちら
 

4.軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化について

収縮特性に優れた軸方向繊維強化型人工筋肉ですが,原理的にゴムの大変形を利用しているため疲労寿命が短いという欠点がありました.そのため,当研究室では人工筋肉の長寿命化に取り組んでいます.L/D比の変更及び伸張結晶化特性を利用することで,通常は数千回程度であった疲労寿命が数十万から100万回程度となり約100倍の長寿命化に成功しています. 本内容は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)よりプレスリリースされています.
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101253.html

@L/D比の変更による寿命への影響評価 人工筋肉の内径Dと稼働部長さLの比(L/D比)を変更することで,変形形状が変化しゴムにかかるひずみも変化します.そのため,L/D比を変更した際の疲労寿命の評価をしました.試験結果を図6に示します.図からL/D比を小さくすると疲労寿命を向上できることがわかります. 詳細は以下論文をご覧ください.
“軸方向繊維強化型空気圧ゴム人工筋肉の長寿命化のための材料とアスペクト比の検討”,日本機械学会論文集,Vol.84,No.857(2018.1)

 
 図6 L/D比を変更した際の人工筋肉の疲労寿命試験結果

A天然ゴムの伸張結晶化特性を利用した長寿命化 本研究では図7に示すようにゴムの伸張結晶化特性に着目し,結晶層により亀裂の成長を阻害し,軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化検討をしました.

 
 図7 伸張結晶化による亀裂伸展阻害モデル

・与圧印加による人工筋肉の寿命評価  伸張結晶化による軸方向繊維強化型人工筋肉の長寿命化効果を確認するために耐久性試験を実施しました.試験結果を図8に示します.図より通常駆動では天然ゴム(結晶性有)及びスチレンブタジエンゴム(結晶性無)で寿命に大きな差は見られませんが,天然ゴムでは与圧駆動(結晶化を利用した駆動方式)とすることで通常の100倍程度の長寿命化を図ることができました. 詳細は以下の論文をご覧ください.
“天然ゴムの伸張結晶化を用いた軸方向繊維強化型空気圧人工筋肉の長寿命化”, 日本フルードパワーシステム学会論文集, Vol.50, No.2,(2019.11)

 
 図8 通常駆動及び与圧駆動による耐久性試験結果