図1 空間メモリのコンセプト図
はじめに †本研究では,人と空間のインタフェースについて考える. 特に,人の知的活動支援を目的としたとき,さまざまな知的活動にとって「知識」または「情報」*1の活用が要であろうと考え,「直感的かつ瞬時な知識の蓄積と閲覧」を実現するヒューマンインタフェースを設計することとした. さらに,本研究は観測・理解・働きかけの機能を有する知能化空間(Intelligent Space: iSpace)における,人の知的活動支援を前提としているため, 人が知能化空間を円滑に利用できるようにすることも,本研究の目的のひとつである. という背景のもと, 直感的かつ瞬時な知識の蓄積と閲覧を実現するためには,
この三つの要件を同時に満足することが必須であると考えた. そこで,本研究は上記の知識の蓄積と閲覧に関する問題を解決するものとして空間メモリを提案する. 空間メモリアドレス †想起しやすい知識の配置により知識へのアクセス性を高めるため, 空間内に三次元位置座標をメモリアドレスとして埋め込み, 実環境の物理的な位置への知識の蓄積を可能にする. これにより,活動環境そのものを利用して知識を分類して配置することができる. この三次元メモリアドレスを空間メモリアドレスと名づける. Spatial-Knowledge-Tag (SKT) †忘却性を低減するためには,知識の所在を人のわかる形で表現する「タグ」が直感的にわかることが重要である. そのため,空間内に配置された機器や生活用品そのものをタグとし,これをSpatial-Knowledge-Tag (SKT)と名づける. 機器や生活用品にはそれぞれの役割があり,人は見ただけでそれを認識することができる. 人のこの能力を活かして実物体をタグとすることができれば,タグが蓄積した知識を想起するきっかけとなり,忘却性を低減できると考えられる. Human Indicator †直感的にかつ誰にでも簡便に知識へアクセスできるようにするため,知識を蓄積した三次元位置へ手を伸ばす直接的なアクセス法を採用する. このアクセス法における手先の位置をHuman Indicatorと名づける. 机上作業支援に着目した空間メモリシステムの実装 †図2 システム構成
評価実験 †アクセス性と忘却性に基づく空間メモリの評価 †作業効率に基づく空間メモリの評価 †空間メモリを用いた活動内容の抽出 †背景 †以上の実験を通して,空間メモリの使用履歴は人の活動履歴そのものであることから,空間メモリを観察することで人が暗黙的に行っている空間への意味づけを推測できるとの発想に至った.空間への意味づけとは,人が空間のあるエリアや位置に割り当てている役割と言い換えることができる.たとえば,リラックスする場所,ディスカッションを行う場所,移動するために通過する場所という役割を空間に割り当てて利用している.従来の知能化環境ではこれらの空間の意味を設計者が暗黙的に認識して,それぞれの空間に合わせたサービスを設計しているが,知能化環境が動的にサービスを設計するためには空間の意味を自律的に推定できることが必須であると考える. 方策 † 空間メモリはユーザのポリシーや使用目的に応じて配置とコンテンツが選ばれて作成される.したがって,空間メモリはある位置において人がどのようなコンテンツを利用したかという情報によって活動そのものを表す.たとえば図1に示すように,ビデオデータで構成されたSKTがあった場合,ユーザはその周辺でビデオを見るであろうということが分かり,またその周辺はビデオを見ることを可能にする場所であるといえる.したがって,配置位置とコンテンツを有するSKTは人の活動内容の記号化とみなすことができ,かつ,そのSKTの配置はそれぞれのエリアに対して人が持っている使用目的を含んでいるであろうと考えられる. 図3 空間メモリの配置例
活動の空間的分割 †配置されたSKTを空間的に分割するため,各SKT間の類似度を定義する.人の活動内容は空間のレイアウトや家具の配置など環境設定に影響を受けると考えられるので,物理的位置に関連が強いと考える.そのため,ユークリッド距離を考慮に入れてSKT間の物理的近さを表現することとする.しかしながら,物理的距離の「近さ」の概念は使用されるhuman indicatorの種類によって異なる.すなわち同じ2mの距離であっても,胴体をhuman indicatorとして用いる場合は近いといえるのに対し,手先位置を使用する場合は遠いといえる.human indicatorは配置したSKTの使用される文脈に応じて選択される.同時に,SKTに対するアクセス範囲の大きさもhuman indicatorの種類に応じて選ばれる.たとえば,机上の作業に用いるSKTは手先によって操作され,このときは小さなアクセス範囲を設定する必要がある.したがって,アクセス範囲の大きさもまた人の活動内容を反映していると考えられる.そこで,アクセス範囲の差を考慮に入れ,SKT iと j 間の類似度を次式で与える.(つづく.しばらくお待ちください.) 配布資料 †
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