SEIKEN精密機械工学研究部テクニカルリポート

1999年10月発表精研研究論文

99年型精研ASTRO号のシャーシ設計
伊東 賢祐

ASTRO-one

ASTRO-two

99年型精研ASTRO-one号

99年型精研ASTRO-two号

はじめに

 精密機械工学研究部がエコラン大会に参戦するようになって今回でやっと4年目ということで、まだまだ歴史の浅い活動であるが、大会初参加の時から活動している私にとって、私自身が今回卒業ということもあり、今年こそは私の手で大会で上位を記録、そして賞を獲得したいという気持で今回挑んだ。

 しかし、ここで私ひとりがでしゃばって製作に着手してしまい後輩達に製作経験ををさせなければ、後の部会としての活動が危ぶまれるという恐れから、今回私はあえて組み立て作業には参加せず、主に設計のみを担当した。また、これまでに合計7台を大会にエントリーしておきながら1台しか完走を果たせなかったといった今までの反省点をふまえ今回はさらなる大幅なレベルアップを試み、そして例年よりも速い時期から製作活動に着手した。

 

新型ASTRO号の設計プロセス

 自動車を低燃費化する方法は、一般的に軽量化、空気抵抗を抑える、エンジンの効率を上げるといった手法が挙げられるが、今回新型車を設計するにあたって私が特に考慮したのは “基礎” となるシャーシ部の剛性である。これは、旧型車でみられた車輪への過剰な負担や動力系統の不都合等から、動力のエネルギがシャーシ部の振動によって大きく失われ、それが低燃費走行に悪影響を与えているのではないかと感じたためである。

 旧型車を設計した時は、シャーシ部に関してはドライバーが乗ってもたわまないかという程度の計算までしか考慮していなかったし、また当時の私の知識ではそれが限界だった。そこで今回新たに挑戦した手法は有限要素法を用いたシャーシ設計である。作業中の著者

 これには精密機械工学科大久保研究室の “I-DEAS” というソフトウェアを使わせてもらい概念設計から製図、解析・シミュレーションまでを行った。また、これはもちろん普段は卒業研究等で使われている装置のため、彼らの邪魔にならないように普段使われていない時間帯を狙って製作を進めた。ちなみに、これによる製作期間は約4ヶ月間だった。

 

I-DEASとは

I-deas 今回のASTRO号の設計にあたって使用した “I-DEAS Master Series” とは、アメリカのSDRC社がCAE/CAD/CAM用に開発した3次元メカニカルソフトウェアで、幾何形状モデリング、有限要素解析、最適化、射出成形プロセスのシミュレーションなど、70以上もの緊密に統合されたモジュールが含まれた、使いやすさと機能性の両方を満足した業界で最も充実した統合メカニカルデザインオートメーションソフトウェアである。

 I-DEASは、世界の航空、自動車、家電等製造企業で、高度な機械製品の設計、製図、シミュレーション、実験、製造に利用され、以前は物理的な試作品の構築とテストでしか得られなかった結果も、I-DEASによって、概念設計から製図、解析まで、これひとつで作業することが可能であり、“完成” をより早く正確に実現するために必要なあらゆるアイデアがこれに含まれている。

 

有限要素法を用いたシャーシ設計

 有限要素法とは構造力学の問題を解く数値解法から微分方程式を求める一般的な数値解析で、これはFEM解析(Finite Element Model Analysis)と呼ばれる。有限要素法の基本的な考え方は、熱,圧力,変位などの連続量は有限個の分割領域内で連続な関数群によって構成される離散化モデルによって近似されるということによって数値解析するというものである。          

 今回のモデルの構造の主な特徴は、シャーシのメインの部分を中央に設けたということとメインフレームを斜めに組んだというところである。

説明図1

説明図2

図1.代表的なシャーシのFEM図

図2.新型ASTRO-one号のシャーシのFEM図

 まず後者について説明すると、代表的なシャーシ構造(図1)を動解析してみると、853[Hz]の入力周波数ですでに全体が大きく変型し、そのなかでも特に変型が走行に影響してしまう車輪取付部分で大きな変型がみられた。これに対し新型ASTRO-one号(図2)は、それよりもはるかに高い(約21パーセント高)1030[Hz]の周波数を加えた場合、シャーシ中央部分では変型がみられるが、特に変型が走行に影響してしまう車輪取付部分やエンジン取付部分では比較的大きな変型はみられていない。このようにシャーシが細長く、しかも3輪車という構造では、ねじりに関して不利という弱点から、ねじりに強い斜のフレーム構造を採用することによって、このように弱点を補うことができた。説明図3

 しかし、以上のことから、ただ単にフレームに斜の補強材を入れるだけでは重量がその分加算されてしまい、我々が求めている低燃費化に結びつかない。そこで、今回採用したのがシャーシのメインの部分を中央に設けるという手法で、新型ASTRO-two号(図3)のように、代表的な構造である四方を囲むように組んだカゴ型(図1)ではなく、中心に1本のフレームを設け、そこから全体の構造を組み上げていくという手法をとり、これにより直径25[mm]のパイプを左右に2本設置する方法から中央に直径32[mm]のパイプを設置したところ、同様な強度を確保させながら約20パーセントの軽量化が可能となった。さらにASTRO-two号(図3)ではこのような中央フレームと左右並列乗車のかたちをとった結果、二人乗りであるのにシャーシ部分に関しては一人乗りのものに匹敵する全長と全幅が可能となり、旧型と比べて約80パーセントの軽量化と約200パーセントの剛性の向上が実現できた。

 

大会結果と反省

 今年の第19回本田宗一郎杯ホンダエコノパワー燃費競技全国大会では、精研出場車である 市販車クラス“鉄男精研”号が38位・燃費93.312[km/P]、 大学生クラス“精研ASTRO-one”号が53位・燃費361.678[km/P]、 “精研ASTRO-three”号が63位・燃費333.016[km/P]、 二人乗りクラス“精研ASTRO-two”号が10位・燃費88.987[km/P]、と受賞は逃したが全出場車が完走できた。しかし、上位入賞と受賞を狙っていた私としては手放しに喜んでいいものか悩むところもあるが、自分達ができる所までやったうえでの結果なので、満足している。

 今回の設計上の特徴は市販車としても十分通用するような高剛性ということだったが、完成されたものをみてみると、競技用と割り切れば、もう少しシャーシ剛性よりも軽量化に重点をおいても良かったと思う。また、足回りやエンジン・ボディについてもまだまだ改善の余地が残っている。しかし、今回は有限要素法という新しい手法を取り入れたことによって、大幅なシャーシ設計のレベルアップができたことだけでも今の段階では十分 “成功” したと思う。

 

おわりに

 このような活動はたった一人だけではまずできないものだろう。今回は部員はもちろん、多くの関係者や理解者の方が協力してくれたことによってここまでやってこれたに違いない。こういった皆さんに感謝の意を表すと同時に、これから先も我が部会がこの活動を進めていくことを強く希望したい。これから先のことは後輩達に託したいと思う。

 

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